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労基法上の労働時間に該当するかはどう判断しますか?

労働者の行為が指揮命令下に置かれているものと評価できるか否かにより客観的に判断されますが、実際の判断では、労働者の行為に対する使用者の関与の有無・程度や業務性の有無・程度が考慮されます。

解説

1 労働時間性の実際の判断要素、労働時間性が問題になる類型

判例は、労基法上の労働時間の概念を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と述べていますが、実際には、労働時間性が問題となる個別具体的な事案に応じた、以下の要素を総合考慮した上で、「指揮監督下に置かれたと評価でき」るか否かを判断しているといえます。

①使用者の関与の有無、程度
→当該行為の義務付け、余儀なくさせたか、強制の事態、使用者による進捗管理、時間的、場所的拘束の有無、程度等
②業務性の有無程度
→当該行為の業務との関連性の有無、程度等

上記①と②の程度も問題になるのは、一方の程度が強ければ、他方の程度が弱くても「指揮命令下に置かれている時間」と評価できることがあるというように、①と②が相補的な関係にあると考えられるためです。
そして、労基法上の労働時間に当たるか否かが特に問題になる類型としては、(ⅰ)準備行為や後始末、(ⅱ)手待時間、(ⅲ)研修・教育訓練の受講や学習等の時間です。以下、この類型ごとに解説します。

2 準備行為や後始末

使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内で行った時間は、労基法上の労働時間に該当します。
判例や裁判例を踏まえると、労働時間該当性判断のポイントは以下のとおりです。

(準備行為や後始末の労働時間性判断のポイント)

①就業を命じられた業務の遂行に関連し、かつその遂行に必要な行為であることが、準備行為が指揮命令下に置かれていたと評価するための当然の前提8
②準備等を怠った場合の不利益措置の程度が大きいと、義務付けありとされる傾向あり。
③準備等の場所指定やそれに伴う場所的拘束があると、義務付け、余儀なくされたとの評価に通じやすい。

3 手待時間

手待時間とは、始業から終業までの拘束時間中に、作業と作業との間で実労働をしていないが、次の労働に備えている時間をいいます。
労働に備えている時間、すなわち、使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間であれば、労基法上の労働時間に該当します。手待時間の反対概念として「手空時間」がありますが、こちらは労働時間からの解放が保証されているので、そもそも労基法上の労働時間に当たりません。
手待時間は、外形的には労働に従事していない時間なので、即時に業務に従事すべき義務付けが実質的にあったのか、それとも休憩時間なのかの区別が問題になります。これは、「不活動時間に労働者が労働からの解放が保障されているか否か」により判断されます(大星ビル管理事件・最判平14.2.28)。
判例や裁判例を踏まえると、労働時間該当性判断のポイントは以下のとおりです。

(不活動時間の労働時間性(手待ちか、休憩か)判断のポイント)

①当該不活動時間帯につき、そもそも労働契約上、随時労務に従事すべき義務付けがあるかどうか
→ここが最初の分かれ目。これは、就業規則や労働契約の内容のほか、実際の指示内容を踏まえて判断。
→当該義務付けがあると原則として不活動時間全体が手待時間(労働時間)となる。
②実質的には義務付けがないといえるか。
→労働契約上、形式的に義務付けがあるときでも、実質的には義務付けがないといえる場合には、不活動時間につき労働からの解放が保障されているといえ、全体が休憩時間に当たる。
③実質的義務付けの有無の考慮要素
・実作業の頻度やそれに要する時間の長さ
・場所的拘束の有無、程度(=随時に労務に就かせるために滞在場所を制約しているか9
・不活動時の過ごし方についての制約の有無、程度(=随時に労務に就かせるために準備させている等、過ごし方を制約しているか)
・当該労働者自らが業務に従事せねばならないか(2名以上が配置されている場合)等

4 研修・教育訓練等の受講や学習等の時間

参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行なっていた時間は、労基法上の労働時間に当たります。
実際に問題になるのは、明確な義務付けがないものの、会社の業務にかかわる研修や学習を行なっている場合です。
判例や裁判例を踏まえると、労働時間該当性判断のポイントは以下のとおりです。なお、職場内の小集団活動(例えば業務に関する改善策をまとめ、その効果等を所定のフォームに入力して共有する、職場内で職場の改善に関するテーマについて話し合ったり、決定した目標に向けた活動をすること等)についても、同様のポイントが当てはまるといえます。
(研修・教育訓練等の受講や学習等の労働時間性の判断のポイント)

・研修や学習内容が汎用性のあるものか、業務に密接に関連するか。
→担当業務に特に必要になる事項であったり、汎用性があまりないものだと、「業務性」が高くなる。
・使用者がそれらの進捗状況を把握したり、評価の対象にしたりしているか。
→使用者の関与が強度である程に、指示によるものとの評価がされやすい。
・不参加の場合に不利益を及ぼしているか否か(参加強制の実態の有無)

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