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裁量労働制では、対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないことになっていますが、その適用や実際の運用上、どのような点に留意する必要があるでしょうか?

専門業務型及び企画業務型ともに、対象業務に該当するかを確認するとともに、実態としても遂行手段及び時間配分の決定等に関し裁量があると認められることが必要です。

解説

1 裁量労働制の概要

裁量労働制は、業務の性質上、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要のある業務に従事する労働者について、その労働時間を、あらかじめ労使協定で定めた労働時間(みなし時間)とみなす制度であり、専門業務型と企画業務型とがあります。みなしの効果については事業場外労働制の場合と同様です。

2 対象業務該当性の問題

(1) 専門業務型

専門業務型の裁量労働制を適用するには、労使協定において、対象業務を定める必要があります。その対象業務ですが、労基法38条の3に基づき、労基則24条の2の2第2項各号が具体的な業務を挙げています。これは限定列挙であり、これに該当する業務のみが対象となります。
そして、この限定列挙されている業務については、行政通達(平9.2.14基発第93号、平14.2.13基発第0213002号、平15.10.22基発第1022004号)が定義しているために、これを参照して、対象業務に該当するかを確認の上で、労使協定で該当の業務を定める必要があります。
なお、専門業務型の場合は、上記の限定列挙されている業務を労使協定で対象業務と定める必要があるので、専門業務の付随業務や補助業務であっても、その業務の性質上、遂行方法を労働者の裁量に委ねられないものは、労使協定で対象業務と定めることはできません。たとえ、手段と時間配分について具体的な指示をしない旨とともに、当該付随、補助業務を対象業務と定めても、専門業務型の裁量労働制の適用はありません(厚労省労働基準局「平成22年版労働基準法上」553頁)。

(2) 企画業務型

企画業務型裁量労働制では、対象業務を労使委員会決議で定めることが適用要件の一つです。専門業務型とは異なり、労基法等による限定列挙はされていませんが、「企画、立案、調査及び分析という相互に関連する作業をいつ、どのように行うか等についての広範な裁量が労働者に認められている業務」と解されています(前掲「平成22年版労働基準法上」564頁)。
この点に関して、厚労省大臣による指針(平11.12.17労告149号、平15.10.22厚労告353号)において、労使委員会の決議の際の留意事項(対象業務の裁量性は業務の性質に照らし客観的に労働者の裁量に委ねる必要性があることを要する旨等)や、企画業務型の対象となり得る業務の例や、なり得ない業務の例を挙げているので、これを参照しつつ、該当性を判断し、決することになります(ただし、指針が挙げるものは限定列挙ではありません)。
なお、企画業務型は、対象労働者は、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であることが必要とされています(労基法38条の4第1項2号)。そして、上記指針では、例えば、大学新卒であっても全く職務経験のないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で対象労働者となるかを検討し得るものとしています。後記のとおり、実態としても業務遂行の方法、時間の配分の決定についての裁量を担保する上では、少なくとも入社3年程度の者からの適用を考えるべきでしょう。

3 実態として裁量を有することが必要

裁量労働制の下で勤務させるも、実態としては、業務遂行に関して具体的な指示の下で業務が行われ、裁量性が乏しい例(いわば「名ばかり裁量労働」)があります。そのような場合には、裁量労働制の適用は受けられず、通常の労働時間規制の対象になります。
裁判例でも、専門業務型の事案ですが、当該事案でのプログラミング業務が、性質上、そもそも裁量性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないとされるとともに、会社の請け負っているのがシステム設計の一部だけで、しかもかなりタイトな納期を設定していたことから業務遂行の裁量性がかなりなかったとして、結局、当該業務遂行は専門業務型裁量労働制の要件を満たさないとしたものがあります(エ―ディーディー事件・大阪高判平24.7.27)。
企画業務型の場合も含め、業務遂行の手段や、時間配分の決定等に、使用者が具体的に指示しないことのほか、業務の性質を客観的に見て、それらの点の裁量を担保できていることが重要です。
なお、上記の具体的指示をしないとは、あくまで業務遂行の手段の選択や、業務にかかる時間配分の決定についてであり、適用対象となる労働者の裁量もその限りです(業務内容の決定や出社するかしないかにまで裁量があるものではありません)。したがって、それ以外には使用者は必要な指示等を行なうことができ、例えば業務の内容、目的、期限等の基本的内容、業務の進捗について報告をも求めることも可能と解されています(前掲「平成22年版労働基準法上」564頁参照)。

(荒川)

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