①経営者と一体的立場にあるといえるだけの職務内容、責任を有するか、②自己の労働時間をその裁量で管理できるか、③その地位にふさわしい賃金等の待遇を受けるかという各要素を総合的に考慮して判断されます。
解説
1 管理監督者制度の概要
労基法41条2号は、「監督若しくは管理の地位にある者」について、労基法上の労働時間、休憩及び休日規制を適用しないとしています。
このため、管理監督者が法定労働時間を超えて労働したり、休日労働をしても割増賃金の支払は不要です(なお、深夜労働割増賃金は労働が午後10時~午前5時の深夜帯に行われることに着目して支払が必要とされるので、管理監督者が深夜労働をした場合も、その支払いは必要です。ことぶき事件・最判平21.12.18参照)。
管理監督者制の趣旨は、裁判例(近時のものだと、コナミスポーツクラブ事件・東京高判平30.11.22、日産自動車(管理監督者性)事件・横浜地判平31.3.26判決等)及び行政解釈(昭63.3.14基発150号)ともに、経営者と一体的立場において、労働時間等の規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任、権限を付与され、実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にある一方、他の一般従業員に比して賃金その他の待遇面で当該地位にふさわしい優遇措置が講じられていることや、自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていることなどから、労働時間等の規制を及ぼさなくとも保護に欠けないことと解されています。
この趣旨に照らし、管理監督者に該当するかは、①経営者と一体的立場にあるといえるだけの職務内容、責任を有するか、②自己の労働時間をその裁量で管理できるか、③その地位にふさわしい賃金等の待遇を受けるかという各要素を総合的に考慮して判断されます。
2 経営者と一体的立場にあるといえるかの判断
前提として、ここでいう経営者と一体的立場とは、企業全体の運営に関与していることではなく、企業のある重要部門について、全体を統括管理する立場にあることだと解されます。経営者は、管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合して、企業全体を運営しているからです(ロア・アドバタイジング事件‐東京地判平24.7.27、菅野和夫「労働法(12版)」492頁参照)。
この経営者と一体的立場にあるかは諸事情を総合考慮して判断されますが、その職務内容や権限に着目して判断されますが、主に以下のような事情が考慮されます。ただし、➊~➌のいずれも相対的なものです。➊及び➋の具体例として挙げている各事情も、それらが全てなければ管理監督者性が否定されるわけではありません。
➊担当部門全体を統括する立場としての職務内容や権限があるか
→業種、企業規模や組織構成にもよるが、例えば、職務内容、権限が担当部門の経営計画、予算の作成とその管理であったり、その他、部門運営にとって重要事項に及び、一定の裁量権を有しているか
➋事業経営に関する決定過程への関与の程度
➌部下に対する人事や勤務割等についての権限があるか
→部下の人事考課、昇格・降格等についての権限の有無、内容のほか、部下の勤務割等の労務管理に関する事項に及び、一定の裁量権があるか
※厳密には➌も➊に含まれ得るが、裁判例では別個に検討、考慮される傾向にある。
なお、➋に関して、裁判例では、単に経営会議に参加していた等の形式的な面だけでなく、当該会議での経営に関する決定過程にどの程度の発言力や影響力を有していたかという実態面も考慮して判断するものもありますが(前掲ロア・アドバタイジング事件、ネットブレーン事件・東京地判平18.12.8)、一方で会議等で意見を発した場合の影響力の有無についてさほど重視すべきでないとしたもの(センチュリー・オート事件・平19.3.22)もあります。この点については、経営者との一体性を、上記のとおり経営者に代わり担当する重要部門全体の統括管理をすることと解すれば、かかる統括管理を通じて経営へ参画しているといえ、経営会議への出席等、意思決定の場に関与していれば、発言力や影響力といった点を殊更に重視する必要はないと考えられます。また、仮に発言力や影響力を考慮するにしても、それはあくまで担当する部門に関する事項についてのものが考慮されるべきものです。
また、➌に関して、部下の採用、解雇及び人事配置についての権限を有しているかも考慮要素として挙げられることがあります。しかし、これら権限の有無が問題となるのは、専ら営業所長や店長といった現場の管理職と見るべきでしょう。管理部門の管理職については、採用、解雇及び人事配置の権限は、通常は人事部門が有しており、その他の部門の管理職が有していることは通常はないからです。したがって、管理部門の管理職に上記権限がないとしても、それで管理監督者性が否定されるとは解されません。
また、担当する職務に関し、最終決定権限までが必要かという問題があります。この点について、スポーツクラブのエリアディレクターが、エリアを統括する上での人事権、人事考課、労務管理、予算管理など必要な権限と、これらに一定の裁量もあるが、最終決定権限まで有していなかった事案について、最終決定権限まで必要とすると、通常の会社組織では人事部長や役員以外は到底、管理監督者になり得ないこととなるとし、管理監督者制度の趣旨に鑑みれば必ずしも最終決定権限は必要ではないと解する旨を述べた裁判例があります(セントラルスポーツ事件・京都地裁平24.4.27)。妥当な判断といえるでしょう。
3 勤務態様の判断
ここでは、自らの労働時間を自らの裁量で管理、律することのできる実態があるかが問題となります。厳格な時間管理の対象とされ、遅刻、早退、欠勤等の際に賃金が控除されていると、管理監督者性が否定されるおそれがあります。また、時間外労働や休日労働が労働者の判断で行われていたか等も考慮されます。
なお、タイムカードの打刻や、勤怠管理システム上で出退勤時刻の記録がなされていたとしても、出退勤の有無を確認するとか、専ら深夜労働の有無や時間を把握するため、その他、安全衛生法(以下「安衛法」)66条の8の3に基づき労働時間の状況把握のため(事業主は、安衛法上の医師の面接指導を適切に実施するために、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態であったかを把握する義務があります。管理監督者のそれも把握対象です)という目的でなされることもあります。このような目的に基づく場合は、上記の出退勤時刻の記録がなされていることから、勤務時間に対する裁量がないと判断することはできません。
4 賃金等の待遇の判断
管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇といえる絶対的基準があるわけではなく、企業規模を前提に、同一社内の他の労働者との比較による判断がされます。
特に賃金については、基本給や手当、賞与等の金額が、一般の従業員の賃金よりもどの程度優遇されているかが考慮され、優遇の程度が大きい程、管理監督者性を肯定する方向に働きます。下位の非管理職の労働者に支給される時間外割増賃金等も含め比較したところ、一般従業員の賃金の方が高いという場合は、管理監督者性が否定される方向に働きます。
(荒川)