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労働時間の把握は、どのような点に留意したらよいでしょうか?

労働時間の適正把握ガイドラインを踏まえた把握をすることが考えられます。

解説

1 労働時間の適正把握ガイドラインの内容

労働時間の把握方法については、厚労省が「労働時間の適正な把握のために事業者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20策定、「以下「適正把握ガイドライン」)を示しており、これを参照しつつ、労働時間管理(把握)するとよいでしょう。
なお、同ガイドラインは、実労働時間の把握が必要とされない、みなし労働時間制(事業場外労働、裁量労働)や、管理監督者は対象外とされています。

(1) 適正把握ガイドライン上の原則‐客観的記録による把握

適正把握ガイドラインでは、労働時間の把握方法について、原則として、①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること、②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的記録を基礎として確認し、適正に記録することのいずれかとします。
上記のうち、②はそれら客観的記録をもって直ちに実労働時間とせよということではなく、あくまで「基礎(基本情報)」とするということを意味します。すなわち、必要に応じて、客観的記録と、労働時間算出のために有している他の資料(残業指示やその報告書等)とを突合して、実労働時間を確認・記録することが求められることに留意が必要です。

(2) 適正把握ガイドライン上の例外‐自己申告とその適正確保措置

他方で、適正把握ガイドラインは、労働者による自己申告制を例外として位置づけた上で、適正な申告、正確な労働時間の確認、記録のために、使用者に一定の措置を講じることを求めています。
すなわち、①労働者に適正に自己申告するよう十分に説明すること、②労働時間を管理する者にガイドラインに従い講ずべき措置を十分に説明すること、③必要に応じた実態調査と所要の労働時間の補正、④自己申告を超えて事業場内にいる理由等の報告が適正に行われているかの確認、⑤自己申告を阻害する措置の禁止等(申告できる時間の上限設定をしない、残業時間削減の社内通達や定額残業代の時間設定が間接的な阻害要因になっていないかの確認)です。
このうち、上記③は、事業場内にいた時間の分かるデータ(入退場記録、PCの使用時間の記録等)がある場合で、事業場内にいた時間と自己申告の労働時間とに著しい乖離があるときに、実態調査の上、必要に応じた労働時間の補正を求めるものです。
自己申告の労働時間と何を比較するかですが、事業場の規模や記録の方法にもよりますが、入退館や入退出記録と差が生じるのは不可避な面があります。このため、なるべく実作業の開始、終了に近接していると思われる記録(PCのログイン、ログオフ時間、メール送信時刻等)の方が比較対象としては適切な場合もあるでしょう。
また、ガイドラインは「著しい乖離」があるときに、実態調査を求めるものですが、具体的にどれくらいの乖離を「著しい」というのか、特に述べてはいません。ここは様々な考え方10があるでしょうが、例えば自己申告されている始業又は就業時刻と、1日単位で30分以上の乖離、週単位では15分以上の乖離が3日以上ある、という場合を実態調査実施の一応の基準とし、それより短い、少ない頻度での乖離でも、必要に応じて調査するとよいと考えます。
実態調査の際には、自己申告の時間と比較する記録のほか、労働時間管理に関わる客観的資料を確認し、労働者本人へ乖離理由を確認します。業務をしていたとの回答があれば、上長へも業務指示の有無や内容、指示をしていなかったとしても、業務をしていることを認識し許容していたか、その他、業務をせざるを得ない状況だったのか等を確認します。確認内容は後に必要になった際に確認できるように、記録しておくべきでしょ11
なお、上記のとおり、適正把握ガイドラインは、専ら自己申告の労働時間について、事業場内にいたことが分かるデータとの「著しい乖離」がある場合について、講ずべき措置を述べていますが、その趣旨は労働時間の適正な把握にあります。自己申告以外の方法であっても、その記録の仕方等次第では、事業場内にいたことが分かるデータとの乖離は生じ得ますから、その場合は、同ガイドラインの趣旨に照らし、自己申告の場合と同様に実態調査が必要になります。

2 「著しい乖離」等を生じさせないために‐適切な労働時間の管理

そもそもとして、「著しい乖離」を生じさせないようにすること、ひいては労働時間の記録を超えて労働しているという事態を避けるための取組みも重要であり、不必要な早出、終業後の滞留をさせないことのほか、労働時間記録のルールを明確にして、周知して、徹底させるべきで、実労働の開始、終了に近接して記録させることが重要です。
また、時間外労働等をする場合のルールや手続についても周知、徹底も必要であり、事前の会社の指示や許可(これらは客観的に記録に残す)がない限りは行ってはならないことは明確にしておくべきです。ルールを守らずに時間外労働をする者には注意指導は当然として、場合によっては懲戒処分をする等の強い対応が必要になることもあるでしょう。

(荒川)

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